手軽に沖に出れることから、カヤックやサップ(SUP)フィッシングの人気が高まっています。しかし、あんな小さな舟で海に出て危険はないのか、不安に思う方もいのではないでしょうか。
結論、海でのカヤックやSUPフィッシングは問題なく行うことができます。ただし、カヤック・SUPは海の危険や安全対策に対する知識がないと危険な面はあることも確かです。
本記事では、一級小型船舶操縦士の資格を持ち、シーズンには週1回以上カヤックフィッシングをしていた管理人(今は休止中)が、カヤックやSUPをこれから考えている人に向けて、危険を回避するための安全対策について解説します。
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カヤック・SUPは「知識」があれば危険はない
今人気のカヤック・SUPですが、SNSでは「カヤック・SUPは危険!」と煽る方もいらっしゃいます。しかし、カヤックやSUPフィッシングは適切な知識があれば安全に行えるとても楽しいアクティビティです。
確かに、カヤック・SUPは小さいために波風の影響を受けやすく、危険な面があります。実際に海上保安庁の「令和4年 海難の発生と救助の状況」では、2022年には58件のカヌー(カヤック)による海難事故がありました。しかも、近年の釣りやカヤックブームで人口が増え、事故件数は年々増え続けています。
しかし、これらのほとんどは、操船者の知識不足が原因です。同じく海上保安庁の調査では、SUPの事故のうち96%が自己の過失が原因で、そのうち8割以上が天候への不注意や知識・技能不足となっています。
逆に言えば海のルールと危険についての知識があれば、大きな事故につながる可能性はかなり低くできます。
自動車だって危険ですが、しっかり交通法規と運転方法を習うからこそ皆さん運転できてますよね。
そこで、この記事ではカヤック・SUPの人が遭遇しやすい海難事故とそれに遭わないための対策などをご紹介します。
カヤック・SUPで多い海難事故
まずは、カヤック・SUPでどんな事故が多いのかを知りましょう。危険を知らなければ対策も打てません。ここでは、海上保安庁の報告で多かった海難事故をもとに事故の種類を紹介します。
疲労や波風で自力で戻れなくなる(運航不能)
手漕ぎボートの事故で最も多いのが、陸に自力で戻れなくなる「運航不能」です。海上保安庁「令和4年 海難の発生と救助の状況」によれば、2022年のカヌー事故のうち、全体の85%に当たる49件が運航不能によるものでした。
「風や潮の流れが強くて漕いでも漕いでも沖に流される」
「思ったよりも沖に来てしまい、疲労がたまって戻れなくなった」
こうしたことが事故の原因です。
転覆後、カヤック・SUPに復帰ができなくなる
カヤックやSUPが波に煽られて転覆した後、戻れなくなって遭難する事故もあります。件数は少ないですが一度起こると死亡する恐れもある危険な事故です。
転覆したボートを元に戻し、そこに戻るというのは実はかなり難しく、多くの方が戻れなくなるのです。
転覆した船への戻り方を知っている・戻る訓練をしている方でも、カヤックやSUPが風や潮に流されて泳いでも追いつけないというケースも報告されています。
他船と衝突する
多船との衝突も件数は少ないですが、危険な事故です。
実は、動力船の船長は見張りの義務があり、カヤックやSUPなどを発見し、それを避ける義務があります。しかし、大型船や漁船などからは手漕ぎのカヤック・SUPは見えづらく、まれに事故につながることがあります。
もちろん、航行中の見張りを怠った動力船側にも責任がありますが、カヤック・SUPが大型船の行きかう海域に入ってしまうことも原因の一つです。
機関故障・オールの紛失による自走不能
「運航不能」に分類されますが、意外とあるのがオールの紛失です。オールがなければ進むことができず運航不能に陥ります。
原因は、オールにリーシュコード(体や船体とオールを結び付ける紐)がついておらず、何らかの拍子でオールを落水してしまうことにあります。
カヤック・SUPで事故を起こさないための対策
カヤック・SUPに起こりうる事故に対し、それ起こさないための対策について解説します。
安すぎるカヤック・SUPは使わない
最近では1万円前後で買えるカヤックが売っています。
カヤックは安くてもすべてそろえると10万円以上はしますので、ついつい手を出したくなりますよね…。私も持っていました。
しかし、1万円前後で買える低価格カヤック・SUPはやめましょう。このような低価格ボートは
以上の理由からかなり危険です。
どうしても乗りたいのであれば、波の少ない池や湖、ライフセーバーが見張る海水浴場などで、マリンレジャーの範囲で使用すべきものです。
とても残念なのですが、本当に危険なので止めたほうがよいでしょう。
最低限の装備を整える
安全に対する装備は整えておきましょう。具体的には以下の4点です。
フラッグ
カヤック・SUPには遠くの船舶からでも見られるよう、赤いフラッグを立てられるようになっています。衝突防止のため、これを必ず立てましょう。
以下の画像は、私がプレジャーボート(動力船)から撮影したシーカヤックの画像です。
見えますか…?画面左上の水面に小さくゴミのようなものが…。
そう、これがカヤックです。
カヤックもSUPもかなり大きいので目立つのではと考えがちですが、プレジャーボートからだと、たいへん小さく、かなり注意をしていないと発見できません。もっと大きい漁船やタンカーなどからではほぼ見えないでしょう。
特にうねりが強い日などは、旗がないとうねりとうねりの間に挟まれて他船から全く見えなくなるリスクがあります。
リーシュコード
SUPからの転落時にSUPが流されていかないようにするためのリーシュコードは用意しましょう。オールを思わず手放してしまった時用のリーシュコードも同様です。
普通はカヤック・SUP購入時についているものですが、着いていない場合でも安く購入できます。
携帯(スマホ)の防水パック
携帯電話は救助を要請する重要なアイテムです。絶対に防水パックに入れて持っていきましょう。
最近では完全防水のスマホやパチリとはめるタイプの防水ケースは推奨しません。なぜならこれらは落水すると浮くことがなく、落としたスマホを回収できなくなるからです。
カヤック・SUPに限らず、ボートや沖堤防に行く際は以下のような中に空気が入って水に浮くタイプの防水パックを持っていきましょう。
ライフジャケット
ライフジャケットは言わずもがな。絶対につけましょう。
ライフジャケットは水に触れると膨らむ膨張式(インフレータブルタイプ)ですと、濡れやすい船上では誤作動を起こす可能性があります。そのため、発泡材が入っている非膨張式のものがよいでしょう。
ちなみに、安すぎるライフジャケットは浮くと書いていて全く浮かない粗悪品も含まれますので注意が必要です。ライフジャケットに関して詳しくはこちらの記事もご覧ください。
うねりの高い日、風の強い日は出船をあきらめる
うねり(波)が高い日や風の強い日は当然ですが出船をあきらめましょう。
中止の基準は、波高が0.5m以上、風速なら3m以上の予報のときです。
詳しい天気の見方やおすすめの天候予測アプリに関しては以下の記事で詳しく書いております。もしよければ参考にしてください。
大事なのは予報だけでなく、当日海に着いたときに「危険そうだな」と思った場合は無理をしないことです。
そのためには、カヤック・SUPフィッシングは「いつでもできる気軽なアクティビティ」だとは思わないことが必要です。当日来てからの中止もあり得る、という覚悟が必要です。
ガッカリしないためにも、同行者には事前に説明をし、別の手段(おかっぱりの釣り場を探しておく、観光に切り替えるなど)を用意しておくとよいでしょう。
危険な航行エリアに行かない
危険な航行エリアに行かないことも、運航不能や衝突事故を未然に防ぐために重要です。具体的には以下のエリアにはいかないよう注意しましょう。
沖に出ない
まず、カヤックやSUPでは、体力の温存のために沖に出すぎないようにしましょう。もう少し沖に行けば釣れるかも…という誘惑にかられ、かなり沖まで出ている手漕ぎボートがいますが、実はとても危険です。
初めての方は岸から200~300mほどまでしか行かないことをおすすめします。慣れていても、どのくらい沖に行くかは自分の技量と体力と十分に相談しましょう。
自船の場所を把握しておく
自分のカヤック・SUPがどの場所にいるのかは把握しておきましょう。釣りに熱中するあまり、潮や風に流されて知らないうちに沖に流されていることがあります。
私は観音崎でそういうことがあり、戻るのにか相当な体力を使いました。かなりヒヤヒヤしました。
潮は場所によっては時速5~6kmなど、軽い早歩きくらいで流れていることがあります。風も船体が穂の役割をしてしまい、知らぬ間に流されます。
戻れなくなるほどの沖に行くだけでなく、商船・漁船の行き交う海域に入ってしまうと衝突の恐れもあります。
ちなみに、山や船宿などを自船把握のためのアンカーにしてしまうと、山は隣の似たような山との見分けがつきづらく、船宿などは小さくて見失いがちになるのでお勧めしません。
絶対に無理をしない
結局のところ、多くの事故は自分の慢心や技量・体力の過信から来ています。
少しでも不安を感じたら「しない」「やらない」が正解です。
魚のために命を犠牲にすることはありません。迷ったらいかない、不安があったらやめるを心がけましょう。あきらめる勇気こそ重要です。
転覆時の復帰の方法を練習しておく
個人でできることとしては最後に、転覆時の復帰の練習をしておきましょう。
前述しましたが、カヤックやSUPから落水すると、人の手を借りるか、事前の練習がなければ戻ることができなくなります。事前にやり方を調べたのち、腰まで位の浅い場所で何度か練習して挑みましょう。
カヤック・SUP教室に一度は通う
まこれまでカヤック・SUPをやったことのない人は、一度近くのマリーナや海岸などで行われているカヤック・SUPの一日体験や教室に通ってみるのがとてもよいです。
とても楽しいだけでなく、効率的な漕ぎ方や海のルール・マナー、そして転覆時の復帰方法など、安全に関する一通りのことを教えてくれるはずです。
SUPやカヤック事故のほとんどは自分の知識不足や不注意にあります。教室ならカヤックやSUPの知識の一部をつまみ食いするだけでなく、海にまつわる危険や安全対策を体形的に一通り学べるのでおすすめです。
カヤック・SUPでの事故時に生還率を上げる方法
最後に、カヤックやSUPで万が一事故やトラブルを起こした際に生還率を上げる方法をご紹介します。
ためらわずに船宿・海上保安庁に連絡する
まず、電話ができる状態なら即電話しましょう。レンタルボートの方は、帰還不能で余裕がある場合、船宿に連絡すると動力船で迎えに来てくれる場合があります。
個人の方や波が高いなど危険が迫っている方はためらわず海上保安庁に緊急通報をしましょう。
意外と知られていないのですが、海上保安庁への通報は
で連絡ができます。
110(警察)や119(消防)でも対応してくれますが、結局は海上保安庁に引き継がれることになります。現場の状況の聞き取りなどでロスが生まれると対応が遅れてしまいますので、覚えているのであればなるべく118にかけましょう。
近くの船に声をかける
近くを通る船があったら声をかけてみましょう。
海でおぼれていたり遭難していたりする人の救助は動力船の船長の義務になっています。小型船舶免許の講習では海難事故に遭った人を船の上に引き上げる訓練も必ず行っています。
遭難した人の救助などのニュースを見ても「近くを通りかかった漁船が発見し」というケースをよく耳にします。海上保安庁の到着を待っていると間に合わなくなることもあります。ためらわず声をかけましょう。
落ち着いて騒がずにおとなしく待つ
帰還不能になった場合、まずは深呼吸して落ち着きましょう。携帯が使えるのかとか、陸を見渡し、今どこにいるのかなどを観察しましょう。
落水した場合も、ライフジャケットを着ているのなら沈む心配はありません。騒いでしまうと体力を使ってしまい、生存率を下げてしまいます。ちゃんとカヤック・SUPに復帰できるのか、近くに人がいないかなどを確認しましょう。
まとめ
カヤック・SUPについての危険性と安全対策についてご紹介しました。
カヤックやSUP(そして書いていませんがレンタルボートなどのすべての手漕ぎ船全般)の危険を避けるには高額なグッズが必要だということではありません。そうではなく、海や船に関する少しだけ踏み込んだ知識が必要なだけです。
注意しなければいけないのは、海のレジャーというのは、準備や装備が不十分な状態でも、海が穏やかで運がよければ普通に戻ってこれてしまう点。それで「意外とこれだけでも安全だったな」と油断してしまうのです。しかし、その油断が事故の元になります。
カヤック・SUPをやる方は普段から事故情報や天気の情報などを積極的に収集し、常に「知識をアップデートする」努力を怠らないようにしましょう。
繰り返しますが、海の危険性や安全対策、ルールなどを理解していればカヤック・SUPはとても楽しいアクティビティです。ここでの知識も参考に、安全なカヤック・SUPライフをお楽しみください。